ジロ・デ・イタリア 21日目
ジロ・デ・イタリア 21日目
クラス:WT ステージレース
開催国:イタリア
日程:5月29日
距離:163km
天候:晴れ
起床時体重:60.0
起床時心拍:47
出場チームメイト:ダミアーノ・クネゴ、アレサンドロ・ビソルティ、グレガ・ボーレ、リカルド・スタキオッティ、エドワード・グロス、山本元喜、ジャンフランコ・ジリオーリ
コースプロフィールは省略。
レース前のミーティング
今日は最後のゴールスプリントをグロスで狙いに行くとのこと。
指示に従って援護するようにという指示。
レースレポート
スタートラインに並びに行く。
今までとは雰囲気が一転しかなり和んだ雰囲気のスタートライン。
それもそのはず、ジロ・デ・イタリアの最終日は総合順位争いがよっぽど僅差でない限りはレース後半の周回コースに入るまで争わずに走るのが毎年の習慣。
レースがスタートしてもペースは一定のまま。
逃げも発生しない。
総合順位リーダーのニーバリが所属するアスタナが集団のペースをコントロールして雨の中をレースが進む。
23km地点。
何もない普通のロータリー前の直線。
ロータリーで集団が詰まり減速する。
前の選手に合わせて自分も軽くブレーキする。
その瞬間、前の選手とほぼ同時に前輪がスリップして地面に投げ出される。
後輪ならともかく前輪がスリップしては立て直すことなど不可能。
雨で濡れた路面を滑る。
自分の左右にも選手が滑っているのが見える。
急いで手を握り体を丸め、指と手足を守る。
落車で一番怖いのは後続から突っ込まれる事。
胴体への直撃であれば肋骨骨折程度で済むかもしれないが、指は切断の危険があるし手足は轢かれて折れると走れない。
幸い後続からは突っ込まれなかった。
打ち付けた左半身が痛むが鎖骨は無事、指も繋がっているし出血も少量。
周りを見るとかなりの人数が転がっている。
水路に落ちている選手も居る。
また水路か……と思いながら自分のバイクを探す。
フレームとホイールは無事。
外れたボトルを拾う為に地面を見ると、デローザのバーエンドと共にカーボンの欠片が落ちている。
「TI…」の文字が確認できたので、ペダルを見るとバネ代わりに付いているカーボンパーツが真っ二つに割れている。
ペダルから足が離れる際に無理な力が加わったのだろう。
今まで割れた事など無かった。
ともかく、これではシューズをペダルに固定することが出来ない。
バイクを交換しないといけない。
チームカーが足止めを食らっているので状況を無線で説明してバイクを持ってきてもらう必要がある。
無線のイヤホンが耳から外れている。
付け直そうとするが付けれない。
そもそも連絡するのにイヤホンが必要ない事に気付く。
マイクで連絡しようとするが、マイクの位置が分からない。
落ち着いているつもりでも相当混乱している。
マイクの場所を思い出し、伝えようとするが何と言っていいのか分からない。
普段なら言葉が出るはずだ。
変に無線で離して向こうが混乱しても困る。
その内チームカーから誰かやって来るだろうからそれまで待とう……というかこの状態で物事を考えるのは疲れる。
とにかく誰かがチームカーからやって来るのを待つ。
チーフメカニックのアンドレアがスペアホイールを持って駆けてくる。
「バイクを交換してくれ!」と叫ぶ「他に誰か落車したか!?」と聞かれ「俺だけ!」と答えると引き返して行った。
バイクが来るまでの間にボトルとデータ記録のためにガーミンを外して背中のポケットに入れる。
福井がやって来たので一応日本語で状況説明。
ちゃんと伝わっていたようでスペアバイクを今取りに行ってくれているとのこと。
アンドレアが自分のバイクに跨ってやって来る。
見慣れない光景に思わず笑うが、受け取って再スタート。
自分が再スタートするころには落車した選手の数がめっきり減っていた。
集団に復帰する為に追いかける。
幸い今日は最終日。
集団のペースは速くないハズ。
むしろ落車した選手を待つためにユックリ走ってくれている可能性が高い。
単独で走っているとFDJのチームカーが「後ろに入れ」と言って車で風除けをしてくれる。
こういった不慮の事故の際にはチーム関係なく助けてくれる場合が多い。
かなり良いペースで先導してくれたが、ロータリーのところで遅れてしまう。
先ほど落車した原因が分からないのでコーナーを攻めるのが怖い。
この道の路面自体が滑りやすい可能性もある。
何台かのチームカーにパスされた後、今度はトレックのチームカーが助けてくれる。
今回はかなり手厚く、集団復帰まで連れて行ってくれた。
集団に復帰して落ち着いたことで落車で負った傷が痛みだす。
左肘の近くと左の太腿の付け根。
良く傷を負う部分だが今回は太腿の付け根をかなり強く打っている。
普通に走っていてもジワジワ痛み、踏み込めば結構痛い。
ほぐせば痛みがマシになるかと思い、ストレッチしてみるが逆に痛む。
これは何もしない方が良いと判断し綺麗なペダリングを意識して走る。
時間が経てば収まるかとも思ったが痛みが引かず。
チームカーまで下がってジュリアーニに「左の太腿の付け根が強く踏み込むと痛む。完走は大丈夫そうだが仕事は厳しい」と伝える。
「分かった。無理せず落ち着いて走れ」と言われる。
集団に戻りクネゴとグレガに同じことを伝える。
クネゴは「無理はしなくていい。後ろに付いていればいい」と言ってくれて、グレガはニヤリとしながら「(いつも通り)俺の後ろだ」と言ってくれた。
その後ジリオーリの隣に並び、同じことを伝えると「大丈夫、腰回りの骨が折れていたらペダルを踏めていない」と言われる。
そこから残りの距離を確認しながら後ろに付いて走る。
最終日だというのに落車するとは付いていない……
いや、違うな。
落車したのが最終日で良かった。
今日以外の日に落車していれば完走はかなり危うかっただろう。
今日まで想像できないくらいに上手く行っていたのだから、これくらいの事は多めに見ても良いだろう。
自分の経験的に良いことが続けば悪いことが必ず来る。
2月のように車に轢かれるよりはよっぽどマシ、この程度の落車で済んでよかった。
最後の周回コースが近づくにつれてペースが上がって行く。
痛みで踏み切れず遅れてしまい集団最後尾へ。
ここから千切れる訳にはいかない。
集中してアドレナリンが出たおかげか痛みが和らぐ。
周回は8周。
1周7.5kmの合計60km。
ラスト2周まで残れれば確実に完走できる。
打ち切りのタイム的に考えて、もし単独になっても集団に追いつかれる事なくラスト1周に入れれば完走できる。
そこまでは出し切ってでも付いて行くしかない。
周回コースの途中に合流する。
道が細くなったり直角コーナーがあったり、石畳があったりでハイペースな集団が伸び縮みを繰り返す。
力尽きそうと思いながらも全力で付いて行く。
ゴール地点を通過し残り8周。
自分にとっては6周。
長い!耐えきれないかもしれない……
残りの周回を数えながら耐え続ける。
残り5周!あと3周耐えればいい!今まで耐えて来た周回と同じ!結構長い!考えるんじゃ無かった!
とか考えながら付いて行く。
周回を重ねるごとにほんの少しずつペースが落ちてきている気がする。
このままいけば耐えきれる。
残り4周に入る1kmほど手前の石畳で落車発生。
道が塞がれて集団後方が足止めを食らう。
スタキオッティが落車に巻き込まれ、ビソルティが自分と同じく足止めを食らっている。
落車が広がっている区間を抜ける。
集団に復帰する為に全力で踏んでいく選手や、追いつくのを諦めてグルペットを作ろうとする選手に分かれる。
自分は後者。
ここでグルペットが出来れば完走は出来る。
結構な人数が巻き込まれていたから大きな集団になるハズ。
ビソルティもグルペット組で選手が集まるのを待っている。
落車したスタキオッティも復帰し、10人以上のグルペットが出来る。
少し人数が少ないがこれなら大丈夫。
速すぎないペースで走っているとそこにオリカの列車が合流。
チャベスが落車に巻き込まれていたらしい。
そこからはオリカがグルペットを曳いて周回数を減らしていく。
ラスト1周に入るまであと2kmというところで「後ろからトップグループが来ている」と言われて路肩に停止させられる。
周りを見ると30人近い選手が止まっていた。
しばらくしてグロスを含んだトップ集団が自分たちの横を過ぎていく。
少し遅れてグレガ。
ビソルティとスタキオッティが「グレガ~」と嬉しそうに叫んで応援していることにグレガが気付く。
「お前ら何やってんだ」とハンドシグナルで表して過ぎていく。
その後に大集団が過ぎていき、「もういいやろ」といった感じで自分たちの集団が再スタート。
ラスト1周に入るというところで「もう1周回らなくていい」と告げられる。
実際、ゴールラインを過ぎたところはメディアの取材や観客でごった返していてとても通過できる状態では無かった。
タイム差に関しては「落車による足止め」を考慮してトップと同タイムという扱いになった。
ゴール後にオリカの選手(おそらくチャベス)が審判に「本当に大丈夫なんだな!同タイムなんだな!」と迫っており、審判が仰け反りながら「大丈夫、大丈夫だから!」と言っていた。
感想
最後は短縮によるゴールという事で若干味気なかったが無事に完走することが出来て良かった。
落車で打ち付けた腰は痛むが、日にちが経てば治ると思う。
落車した原因だが、どうやら道路にオイルが撒かれていたらしい。
もし故意に撒かれていたのだとすれば、どういう思考回路をしていればそんなことが出来るのか分からないし、そういうことをする人間はクズだと思う。
そこに怒ったところでどうしようも無いのは分かっているので今は回復させることを最優先で考えたい。
ジロ・デ・イタリアを完走することが出来たという事でほっとしている部分もあるが、まだまだ足りないところばかり。
ここから成長しなければ経験を積んでいる意味が無いのでそのことを忘れず、これからも強くなる為に頑張り続けたいと思う。
もっとも、まずは一旦休憩したいと思う。
3週間走り続けたわけだし、しっかりと疲れを抜いてリフレッシュして次に気持ちを切り替えていきたい。
キツさレベル
7
最終日という事でレースはそこまで辛くなかった。
最後の周回も落車していなければ今日ほど苦しんでいなかったと思う。
しっかり休んで次に備えたい。
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