ジロ・デ・イタリア 18日目
ジロ・デ・イタリア 18日目
クラス:WT ステージレース
開催国:イタリア
日程:5月26日
距離:240km
天候:晴れ
起床時体重:60.8
起床時心拍:40
出場チームメイト:ダミアーノ・クネゴ、アレサンドロ・ビソルティ、グレガ・ボーレ、リカルド・スタキオッティ、エドワード・グロス、山本元喜、ジャンフランコ・ジリオーリ
コースプロフィールは省略。
レース前のミーティング
ミーティングの内容は「山岳ポイントに絡む選手が飛び出したら捕まえるように」という感じ。
ミーティング後に個人的には聞きに行かなかった。
レースレポート
スタートに並びに行く前に少し考える。
このまま行けば今の調子的に完走は確実。
完走だけがしたいのであれば今日は集団で休んでおいた方が良いと思う。
しかし、それだけで良いのか?という思いもある。
完走が確実で目標を達成できる以上、その次のステップに進まなければ成長は無い。
自分がジロに出ているのは経験を積むため。
少しでも多くの経験を積むことが出来れば次に繋がる何かが見えるはず。
今日どうすればいいか監督のジュリアーニに聞きに行けば「今日は長いし、明日と明後日はきついレースになる可能性が高いから休んだ方が良い」と言われる気がした。
そう言われてしまえばそうするしかない。
自分でどうするか決める為に今日はジュリアーニには聞きに行かなかった。
結局のところ、明日明後日に山岳が控えていようと、今日の距離が最長だろうと「逃げたい」という思いは変わらずあったわけである。
もし逃げに乗れれば更なる経験を積むことが出来る。
逃げれなければ明日明後日に向けて休むことが出来る。
「何が何でも」という感じでは無く、「逃げれれば良いな」という位の軽い気持ちで逃げを狙おう。
そう考えてスタートラインに並ぶ。
軽い気持ちではあるがパレード中は集団の前から2列目以内を死守。
今!と思った瞬間にいつでも飛び出せるように備える。
スタートと同時にグロスが審判車を追いかけて単独で発射していく。
審判車に振り切られグロスが単独で先行。
それとは別の動きで集団からアタックがかかり集団が伸びる。
ファーストアタックは決まらず。
今日のスタート前にグレガに「今日のアタック合戦はどうなると思う?」と聞いたところ「長引くぞ~」と言って笑っていた。
吸収された後に2人が飛び出す。
集団先頭はスカスカにバラけた状態で広がっている。
行けそう。
そう判断し一気に飛び出して2人を追う。
あと少しで追いつける、というところで後ろに付いて来ていた選手と交代する。
自分の後ろに付いて来ていた選手たちの最後尾まで下がる。
結構な人数が来ている。
しかし、先頭の選手は後ろを確認してから更に踏み込んでいく。
恐らく集団が離れているのだろう。
人数が多いので決まる可能性は低いが絶対に遅れてはいけないし、前に出ても行けない。
前に出れば消耗する。
逃げの飛び出しはとにかく速い。
ここで先頭に出ればかなりダメージが来るし、吸収された際に再び反応できなくなる。
上手い事他の選手を利用して前に出ないように工夫する。
それでも2、3ど先頭に出てしまった。
先頭に出た際はペースを落とさず速攻で変わる。
しばらくしてジリオーリが合流する。
人数もかなり増えて来たので「とうとう集団に追いつかれたのか?」と思い後ろを見ると集団の姿が全く見えない。
しばらくしてタイム差が1分半という事が逃げに伝えられる。
無線から「バルディアーニが集団を曳いている」という情報が入る。
しかし逃げ集団は24人が完全に協調しておりハイペースで突き進む。
バルディアーニが追いつける訳も無く集団とのタイム差がドンドン開いて行った。
開始30分辺りでタイム差4分程。
こうなれば今日の逃げはこのメンバーで確定。
集団が追ってこようが24人も居れば差を詰めるのは至難の業だろう。
全員がサボらずに綺麗にローテーションして逃げる。
自分は楽に走れる位置を探してローテーションの入る位置をちょこちょこ変える。
やり方としては用事が有るようなフリをして集団の後方でローテーションから外れ、良い選手が来た際にローテーションに再び加わるといった感じ。
分かりやすく言えばデカい選手に挟まれるような位置を探す。
ローテーションで前に上がって行くときも風除けがいて、交代してからも前に風除けが出来る位置。
もっとも全員自分よりデカいので誰でも良い風除けにはなるのだが、少しでもデカい選手の後ろに付いて少しでも楽がしたい。
楽が出来る位置を探しつつローテーションを続ける。
ローテーションは集団とのタイム差を確認しつつペースを上げたり下げたりしている。
楽に走ろうと思っていても先頭を曳くことが有るのでやはり疲労が溜まる。
「そろそろ良い具合に目立つことも出来たしいい経験も出来た。吸収されても問題ないな、今日はどれくらいの位置で集団が追いついてくるのかな?」とか感がえながら走る。
タイム差はズット10分を越えたまま。
一向に詰まって来ない。
そもそも逃げの人数が多いせいで逃げのペースも落ちる気配が無い。
これでは追う側も中々差を詰めれないだろう。
……という事は逃げ切りか……。
150km地点、ラスト90kmを切った時点でタイム差が11分以上だったことで頭の中を逃げ切りに切り替える。
ここからは出来る限り足を使わずに集団に残る事を考えないといけない。
逃げ切るであろう集団に居るというのはかなり良い。
更なる経験を積むことが出来る。
160km地点から登りが始まる。
しんどいような雰囲気や乗り方で集団の最後尾に下がる。
他の選手から見れば自分は「小さい日本人。総合順位ドべから4番手。雑魚。その内千切れる」といった感じだろう。
ここで苦しそうに集団最後尾に居ても全然不思議に思われないハズ。
それならば、それに甘えて集団最後尾で少しでも楽をして足を溜めよう。
どう考えても他の選手の方が強い以上同じ条件で走っていればスグに散ってしまう。
そこからは集団最後尾でローテーションに加わらず足を溜めながら走った。
特に文句を言われることも無く気楽に付いて行く。
無線からは「この集団は逃げ切ることが確定的なので、ラストの2級山岳や、その手前の登りでのアタックに気を付けておくように」と告げられる。
180kmを過ぎて登りが始まる。
集団先頭から2人の選手がアタックで飛び出す。
「これか!付いて行ければチャンス!」と思い集団最後尾から全力で反応して一気に追いつく。
「よし!追いついた!」と思って後ろを見ると集団も付いて来ていた。
完全に判断ミス。
放っておけば集団が差を詰めただろうに、気持ちが先走って全力で追ってしまった。
今の全力の反応のせいで一気に足に来た。
相当キツイ。
しかもそこから他の選手を振り落とすために集団のペースが上がる。
振り落とされかける。
早く山頂来い!と思いながら粘る。
足が限界の状態で山頂通過。
ギリギリ集団に残れた。
しかしそこから超ハイペースの下り。
コーナーで少し遅れる。
いつもの事。
コーナーで遅れた分は直線で踏んで取り戻す。
しかし足がいつもと違う。
足が限界過ぎて直線で踏めないし取り戻せない。
しかも下りの途中でBMCがコケてるし……
コーナーが遅くて落車から復帰したBMCに抜かされる。
さすがに1度コケてる選手の後ろに付くのはリスキーすぎる。
しかも懲りずに超高速で下って行くし……
そのまま前に追いつけず下り切る。
下り基調の平坦区間に入る。
自力で踏んで追いかけるが差が詰まらない。
力尽きそう。
無線から「後ろに選手が居るからそこに合流しろ」という指示が出る。
踏むのを止めて後ろを待つ。
LOTTOソウダルの選手に一気に抜かれる。
急いで追いかけ直して追いつく。
一心不乱に前を追ってくれたおかげで自分は前を曳かずに済む。
チームカーの車列に合流する。
チームカーの横に並ぶと「ジリオーリに水を運んでくれ!」と言われて水を受け取る。
チームカーの横を抜いて行く。
ロータリーでクイックステップのチームカーに轢かれかけるが回避する。
その後集団に復帰。
「前で回れ!」と無線から指示が聞こえたので、先頭まで上がって集団から飛び出していた2人の選手を捕まえる。
そのままの勢いで7秒先行している別の選手も捕まえようとするが、無線でジリオーリから「違う!問題ない」と言われて後ろに下がる。
普通に書いてはいるがかなりキツイ。
その後緩い登りで集団のペースが上がる。
千切れる。
離れるが、前のペースが落ちた際に歯を食いしばって再び追いつく。
この後に千切れるのは確定的だが、少しでも残って勝負所に向かう集団がどういう動きをするのこの目で見たい。
散発的にアタックがかかっては吸収を繰り返す。
集団が伸びるたびに苦しむ。
ゴール地点を通過して石畳の区間に入る。
石畳のまま登りが始まる。
これは耐えるとかの問題じゃない。
タダでさえキテいる足に石畳の登りを踏み切るような力は残っていない。
ここで決定的に遅れる。
ラスト25km程。
下り切って2級山岳に居向かう平坦区間に入る。
チームカーに抜かれる際に「あとは流してゴールすればいい」と言われる。
チームカーに抜かれてからも前方に見える逃げ集団との差がそこまで開かない。
ペースが落ちているのだろうか?追いつこうか?と思うが、ここで無理してもどうせ登りが始まればすぐ千切れると考え直して止める。
(ここからユックリ流して帰るべきだろうか?
正直、逃げから千切れたとはいえメイン集団からは逃げ切りたい気もする。
ワールドツアーのレースでこんな上位でゴールできることなど滅多にないだろう。
しかもジロ・デ・イタリア。
しかし明日のためにも無理は出来ない。
ユックリ帰るべきだろうか?)
そんな葛藤をしながら登りに入る。
(とりあえずはこの平均勾配10%、距離5kmの登りを抜けてから。)
そう考えて登りだす。
この登りが半端無かった。
今の足に来ている状態では真っ直ぐ登れないような区間が何か所もあった。
蛇行しながら苦しみ、苦しみ、苦しんでやっと登りきる。
集団が来ている気配は無い。
下りに入る。
この下りが相当ヤバかった。
ガードレースの無い「すぐそこが崖」という細くて曲がりくねった道を下って行く。
所々砂もあるし、ユックリ下っていても相当怖い。
(勝負にかかわっている選手はここを爆速で攻めるんだろうか?正気の沙汰じゃない。
下手すれば死ぬ。
そもそもこの道は本当にコースなのだろうか?自分が道を間違えたのではないだろうか?)
そう疑い出したところで観客が現れ、コースで有ると確信する。
集団に追いつかれないまま下り切り、下り基調の平坦に入る。
ラスト10km。
そこからは長い直線区間に入る毎に後ろから集団が来ていないか確認して走る。
そこまで踏まないように気を付けてはいるが、「逃げ切りたい」という気持ちのせいで、やはりペダルに力を込めてしまう。
ラスト3kmのゲートを越える。
後ろに集団無し。
逃げ切れるかも!
そう思いながら先ほど逃げ集団から千切れた石畳の登りへ。
後ろからコミッセールバイクに抜かされる。
後ろに集団が近づいて来ている証拠だ。
ここまで来たのであれば逃げ切りたい。
石畳の登りを頑張って登りきる。
千切れてからそこまで踏んでいなかったおかげも有ったのか、1回目の石畳の登り出しから終わりまでが2分13秒、2回目が2分8秒。
少し速く登れた。
登り切ってラスト2km。
下り切ってラスト1400m。
後ろを頻繁に確認して集団が来ればいつでもダッシュできるように備えて走り、そのまま追いつかれずにゴールした。
感想
かなり貴重な経験を積むことが出来たステージだった。
足に疲れを溜めないように気を付けて走ってはいたが、やはりダメージが蓄積していた。
まだまだ実力が及ばないという事を見せつけられはしたが、良い物を見ることが出来た。
いずれはこういう展開で勝負に絡めるような選手になりたい。
自分が将来目指すところを見ることが出来たのでかなり嬉しかった。
判断ミスによるダメージは相当大きかったと思う。
興奮状態で冷静に判断できていなかったと思う。
十分に痛い思いをしたので次は失敗しない。
世界トップのレースで逃げに乗れたというのはかなり大きな収穫だった。
これを糧にして更に成長していきたい。
まずは明日明後日の超級山岳ステージを全力で乗り越えたい。
今日のダメージで明日完走することが出来なかったとしても仕方がないとは思う。
しかしどれだけ苦しくても諦めるつもりは一切ない。
石に噛り付く思いで集団に食らいついて行きたい。
そこまで努力した上で完走できなければ、それは力が足りないという事だろうと思う。
もっとも、今はかなり調子が良く今日も千切れてからは流して走っていたので、登りの苦しさはいつもと変わらない可能性もある。
とにかく残り2日に超級山岳ステージで絶対にゴールし、無事にトリノに到着することで「第1の目標」を達成したいと思う。
というより、やはり完走しなければ意味が無いと思うので何としても完走できるように全力を尽くしたい。
昨日のダメージが……とか言っている場合じゃない。
一度完走すると決めた以上、完走しなければヘタレである。
キツさレベル
9
感覚的には一昨日のステージの方がよっぽどキツかった気もする。
瞬間的なキツさはあったが、長時間苦しみ続けたという感じは無かった。
しかし、かなりの距離を走っている上に強度も高かったのでジワジワと疲労が溜まっている可能性が高いので気を付けたい。
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